【 文部科学大臣賞 】
「文化と卵」
氏名:佐々木 晴美

 私の住む福井県には、卵の殻を使った「若狭塗箸」という伝統工芸品があります。この箸は、江戸時代に小浜藩の御用塗師が、若狭の海底の美しさを表現したのが始まりです。その複雑で美しい模様は、貝殻や卵の殻を色漆で十数回も塗り重ねてから、丹念に研ぎ出し、磨き上げることで生まれます。当時は高価であった卵とはいえ、本来なら捨ててしまう殻。それを利用しながら、手間ひまをかけることで、芸術品ともいえる箸を作り出した先人の知恵と美的感覚には驚かされます。
 箸は日用品であり、現在は安価なものが出回っていて、高価な「若狭塗箸」を購入する人は少ないかもしれません。しかし、箸はまた、日本の食文化には欠かせないものです。質のいいものを日常生活の中で使うことが真の豊かさであり、その国の文化レベルを表しているのではないでしょうか。私は、これからも大事に使っていきたいと思っています。