【 キッコーマン賞 】
「文化と卵」
氏名:二田 八郎

 日本食文化の一つの側面として、「生食」にその独自性を見出すことができる。魚(寿司)はもとより卵もそうではないか。
 種類や味も豊富に開発され、近頃は単なる卵掛け御飯がTKGとしてブームを呼んでいる。専用しょう油まで登場するほど。
 スキヤキ等も味をまろやかにするとして、溶き卵に浸して食すのもごく一般的である。
 一方、ウドンやソバにも生卵を落とす。これは「月見」と称される。同じ生でも丸く美しい姿を活かし月に見立てているのだ。
 しかし、同じ満月を牛丼やカレーに乗せても月見牛丼、月見カレーとは言わない。やはり、月は水面(ダシ)に浮かべてこそ趣がある。日本古来の風流がここにも息づいている。
 生食文化としての卵は、それ自体を味わう“美味”と、見た目を愛でる“美見”、この二つのビミで並進してきたと思う。
 もちろん、国内生産者の努力による安全性あってこそ成り立つ日本独自の文化である。