【 イセ食品賞 】
「文化と卵」
氏名:森 千恵子
手術をし、二十日ほど入院生活を送った時のことだった。回復期に入ると、食事が楽しみになった。テレビニュースによると、今年の猛暑で卵の出荷量が減って、値上がりしているらしい。病院食に卵がなかなか登場しないのは、そのせいかしらと寂しかった。それでも、卵好きな私は待っていた。そんなある日のおかずは、おでんだった。コンニャクと大根の間で卵が半分だけ座っている。二分の一個でも私は嬉しくて、卵に微笑んだ。
ふと卵は、おふくろの味という世界共通の文化の原点のような気がした。卵は変幻自在で、価格変動も少ないエコ食品の代表でもある。医療機関でも多大な貢献をし続け、頑張っている。たった一個の卵にも、人間の命の繋がりを見守ってきた歴史があるのだと感じた。食事の最後に、少しずつ卵をいただくと、帰りを待つ家族の顔が眼に浮かんだ。味のしみ込んだ卵の美味しさは格別で、心がほっこりとなり涙がこぼれた。